世界中で確認された魚人達。そんな彼らには、共通点が一つだけあった。
それは――
――全員が、海棲の亜人種だという事だ。
海で生活し、陸では生きられない筈の海棲生物がどうして陸地へと現れたのか？ その謎は未だ解明されていない。
ただ一つ分かっている事は、彼らは人間を食料として狙うという事だけだ。
そして今、この世界には人を襲う怪物達が存在する。
その存在の名は――魔獣。
そう呼ばれている存在だった。
※
※
※ ここはとある街にある酒場。
そこで二人の男が酒を飲みながら会話をしていた。
一人は二十代前半ほどの男であり、もう一人は四十代半ばほどの男性である。
二人とも漁師のような格好をしており、どちらも日に焼けた肌をしている。
二人は酒を片手に楽しげに会話を続けていたのだが……突然、話題が変わった。
男の一人が真剣な表情を浮かべて言う。
――それでよぉ……俺は思うんだが、やっぱりあの時、お前も一緒に行けば良かったんだよ。
――だから何度も言っているだろう！俺が行った所で何も変わりゃしないって！！ もう一人の男は顔をしかめて怒鳴り声を上げた。
――何言ってやがる！お前がいたから何とかなったかもしれねぇじゃねえか！
――いいや、無理だね！アイツらがあんなに大勢いるんじゃあどうしようもないぜ！？
――それでも行った方がマシだったさ！
――冗談じゃない！！俺はもう二度とごめんだね！！ 二人はしばらく口論を続け、やがてどちらともなく疲れたように溜息をつく。
――全く……一体誰がこんな事になっちまったんだろうか？
――本当に分からねぇ……まさか、いきなりあんな事になるなんてなぁ……。
――ああ、そうだな。それにしても……これから先、どうなるのかね？
――どうにもならねぇよ。魚人共が現れた時に俺達は覚悟を決めたんだ。
――まぁな……それしかないよな……。
二人は揃って重いため息を吐いた。
それから二人は黙ったまま杯を傾けていく。
沈黙が続き、ふいに男が口を開いた。
――なぁ、最近噂になっている話なんだが……聞いた事あるかい？
――噂？どんなのだ？
――なんでもよ、この街の近くに遺跡があるらしいぜ？
――遺跡だって？なんでまたそんな所に？
――何でもそいつは、海の底に沈んだ古代都市だとか言われていてよ。そこには宝とか財宝が大量に眠っているっていう話だ。しかもそれだけじゃなく、そこには伝説の武器防具もあるらしいぞ？
――へぇ～そりゃ凄いな！だが、どうしてそれが分かったんだ？
――それがよう、実は俺達の爺さん達が若い頃に行った事があるらしくてな。その時に手に入れた地図があって、そこに遺跡の場所が記されてるらしいんだ。
――成程……でもよ、もし本当ならとんでもない額になるんじゃないか？
――だろうな。だからこその財宝だよ。
――うーむ……しかし、そこまで分かっていながら何故誰も行かないんだろうな？
――それは簡単だ。誰もが命懸けになりたくねぇからさ。
――確かにな……だけど、その話が本当かどうか確かめたいとは思わないのか？
――勿論、俺達もそう思ったさ。けどな、実際に行くとなると話は別だ。
――どういう意味だ？
――ほら、この前起きた例の事件、覚えているだろう？
――……ああ、あれか。あの時は俺も肝を冷やしたぜ。
――アレを見た後じゃあ誰だって行きたくないと思うだろうよ。実際、あの時の騒ぎのせいで暫く漁に出られなかったしな。
――まぁ、そうだな……あんな化け物がいるんじゃあ、流石に行きたいとは思えないよな。
――そういうこった。だから皆、諦めちまってるんだよ。
男は肩を落として深く溜息をついた。そして少し悲しげな顔で言う。
――このままじゃ、俺達もずっと海の中ってわけか。
――……仕方ないさ。俺達に出来る事は待つことだけだ。
――それもそうだが……くそっ！どうにかしてやりてえが……。
――落ち着けよ。俺達が騒いだところで何も変わらねえ。
男は拳を強く握り締めて言う。
――分かっている！だが、どうしても悔しくてな！俺達はただ待っているだけしか出来ないのか！？
――ああ、そうだ！それに俺達が何かをした所で何も変わらない！
――ッ！ 男は歯軋りをしてテーブルを思い切り叩いた。
――ちくしょう！！ 男の叫び声が店の中に響き渡る。
男はしばらく無言のまま俯いていたが、やがて力尽きたように椅子に座り込んだ。
――畜生……なんで、どうしてこうなったんだ……。
――……すまない。俺が軽率だったばかりに……本当にすまなかった。
男は涙を浮かべながら男に向かって頭を下げた。
――いいや、お前が悪い訳じゃない。俺の方こそ悪かった……許してくれ。
二人は涙を流して互いに謝罪する。
そして……そのまま長い時間が流れていった。
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