プロのアナウンサーとして、ひとりの人として。堀井美香さんが語る、朗読の魅力とは。

クリエイターが集まるプラットフォーム「SUZURI(スズリ)」では、さまざまな創作でご活躍中のクリエイターに、「表現をすること」をテーマにお話を伺う連載をスタートします。

今回のゲストは、フリーアナウンサーの堀井美香さんです。お母様に朗読を義務付けられていた幼少期を経て、1995年にTBSに入社。局アナとしてナレーションを極め、今春からはフリーアナウンサーとして新たな一歩を踏み出した堀井さん。「読み」を表現方法に選ばれた理由や、その魅力と奥深さについて伺いました。

<堀井美香さん>
秋田県出身。1995年にTBSテレビに入社。2022年3月に退社した後も、TBS『坂上&指原のつぶれない店』等、多くの番組ナレーションを担当している。ジェーン・スーさんとのPodcast番組「OVER THE SUN」でのおしゃべりが大人気。今年6月には朗読会『yomibasho Vol.1』を開催予定。

堀井美香さんのホームページ|yomibasho

もともと自分のことを話すのが苦手なタイプだった

――堀井さんは、幼少期から朗読を積み重ねていたそうですね。小さい頃の経験が、アナウンサーのお仕事につながっているのでしょうか?

堀井美香さん(以下、堀井):母親の教育方針として「とにかく教科書を読みなさい」があったので、毎日嫌々読んでいました。

それで、アナウンサーになってからも、0.1秒を詰めて読んだり、抑揚を上げ下げしたりする作業が苦戦せずに出来たんですよね。幼少期に朗読のトレーニングの経験を持たせてくれた母親のおかげだと思っています。

――TBSに入社後、アナウンサーとして幅広く活躍して行く中で、「私はナレーションに向き合いたい」と強く意識するようになったのは、いつ頃だったのでしょうか?

堀井:新人アナウンサーが担当するゴールデンタイム枠の仕事と並行して、いくつかナレーションの仕事をしていました。その時に現場から「ナレーション上手だね」と褒めていただくことがあり、「私って、ナレーションが得意分野なのかもしれない!」という気持ちが頭の片隅にあったんです。

その後、出産し育児をする中で、部署移動の話が出たんですけど『ザ・ベストテン』の山田修爾(やまだ しゅうじ)プロデューサーが「君、少しの期間でもいいからナレーションをやらない?」と声をかけてくださったんです。ドキュメンタリーの現場にも入れてもらえたことをきっかけに、本格的に始めました。

――当時は、テレビ局のアナウンサーとして「ナレーション」を極める方は、今ほど多くなかったんでしょうか。

堀井:私がTBSに入社した27年前は、どの局も、女性アナウンサーは番組でも顔出しが基本で、ナレーションは裏方の仕事でした。とある現場で「私、ナレーションをやりたいんです」とプロデューサーに相談すると、「顔出しの仕事がなくなるから、そういうことは言わない方がいいよ」って感じでしたね。

でも、たとえ人に否定されても、自分はやりたい気持ちが強かったので、あまり気にはしていませんでした。

――入社後から、アナウンサーとしての具体的なキャリアプランを立てていたのですか?

堀井:そんなことはないんです。若い頃から「全部の番組でナレーションをできるようになりたい」っていうぼんやりとした目標はあったんですけど、ただ目の前の仕事をやり続けていたら、結果的にやりたいことが出来るようになった感じです。

――ナレーションを極めていく中で、ジェーン・スーさんと共にパーソナリティを務めるポッドキャスト番組『OVER THE SUN』の仕事が始まった時、自分の意見が求められることに戸惑うことはありませんでしたか?

堀井:アナウンサーは、ゲストをお迎えする立場なので、「5秒余ったら、タレントさんに喋ってもらえるようにパスを振りなさい」と教わってきました。

もともとの私の性格的にも、大人数いると、自分のことをベラベラ話すのは苦手。黙っている人に話を振って、聞くことに徹するタイプでした。だけど、『OVER THE SUN』では自分からどんどん話さないといけないので、覚悟を決めています(笑)。

――番組で堀井さんの軽快なトークを聞いていると「自分のことを話すのが苦手」とは思いませんでした。

堀井:会社員時代は、給料制だったのですが、フリーランスになってからは、ギャラをいただいているので、最近、スーちゃん(ジェーン・スーさん)に「ギャラを貰っているんだから、私と同じ分量を喋って!」って言われて(笑)。なので、2人で取材を受けている時も先に相手に喋ってもらうクセが出てしまうんですけど、スーちゃんに「ちょっと、あなたも喋って!」って注意されています(笑)。

朗読は、年齢や環境によって受け取り方が変わる

――シーン別に声や話し方を使い分けるために、どのようなトレーニングをしたのでしょうか?

堀井:もともと明るく高い声で、ドキュメンタリーやニュースを読むのには合わない声だと言われていたんです。「自分の声は、若い時には重宝されるけど、歳をとると仕事が減るかもしれない」と危機感を抱いていました。

活動を長く続けていくために、演歌歌手の方がやっているように太い声を出して、声の幅を作るトレーニングをしたり、演出家の先生に朗読の稽古を習ったりして、「読み方」の指導をしていただきました。

――演歌歌手の方が行う発声トレーニング、気になります!

堀井:演歌歌手のレッスンの中には、海に行って、声を潰す方法もあるそうなんです。私はそこまでしていないのですが、常に高い声を抑えて、宝塚の男役のような声を出し続けた結果、高い声からかすれた声まで、自由に出せるようになりました。

――そんな努力があったんですね。「読み方」の指導とは、ほかにどういった内容があったのでしょうか?

堀井:「悲しみ」の言葉ひとつでも、「どうしてこの言葉が出てくるんだろう?」って意味を考えることが大切なんです。自分でも理解しないまま読んでしまうと、聴く人の心をとらえることができません。

以前、演出家の先生から「テキストへの理解が薄い」と言われたことがあるんです。そこで、自分が読むこと自体に夢中になってしまい、テキストの中身をきちんと理解していないことに気づきました。それから、読み方の本質を理解して、繰り返して読んでいくうちに上達しました。

――感覚で読むのではなく、テキストをロジックの部分で理解していることも大切なんですね。

堀井:もともとアナウンサー研修時代に「そこ、悲しみを込めて!」と言われた時に「悲しみの込め方を表現すると、どんな風に出てくるんだろう?」と、ロジックの部分でも理解したいと思っていました。それで、10年前に「読む時でもロジックが大切だ」という確信が深まった日から、夜な夜な学んだことを文章にまとめて、朗読のやり方を模索しています。

仕事だけではなく、趣味としても朗読をやりたい

――堀井さんがクリエイターとして、日頃から意識していることを教えてください。

堀井:「朗読ができる場所を自分で作っていく」ことです。私は、発表する場所がないとダメなタイプ。華々しいテレビの仕事だけをやっていると「朗読はもういいや」ってなるんです。だからこそ、「とにかく場所を作っていこう!」と思って、200人規模の自分がステージに立つ朗読会だけでなく、10人程度が参加できる小さな朗読会も企画しています。

自分の成長を止めないためにも、朗読ができる場所をたくさん作っていこうと思っています。

――大規模イベントではなく、あえて小規模の会場を選んだのにも、こだわりの部分があったのでしょうか?

堀井:ごく内輪だけの、少人数な発表会にしたかったんです。イメージとしては、地方の図書館に貼られた告知の紙を見た、「堀井美香」を知らない人が来てくれる空間。実は、既に7月にとある島で1回目の開催が決まっています。

人が集まるかは分からないんですけど、ナレーションで稼いだお金でやるので、集まらなくてもそんなに気にはしないです(笑)。

――ライスワークとライフワークをそれぞれ考えて活動されているんですね。

堀井:そうなんです。「せっかくだからYouTubeにもアップしたい!」と思い、撮影スタッフとして知り合いのディレクターに依頼したのですが、「1回のイベントで、交通費や宿泊費がこんなにかかるんだ!」って痛感しました。だから、朗読会は完全に赤字なんですよ(笑)。

生計を立てていくためにも、プロとしてのナレーションの仕事はしっかりとやる。そして、稼いだお金を朗読会に使っていく。私の場合、このバランスがちょうどいいなと思っています。

――そこまで堀井さんが朗読にのめり込んだ理由は、何でしょうか?

堀井:朗読って大きな演出がある訳でもないので、お客さんからすると本当に地味なんですよね。私は、自分の朗読会を「ジャイアン・リサイタル」って呼んでいるくらい(笑)。世の中の人の大半は、朗読に興味がないと思うんです。

だけど、派手ではないからこそ、ひとりでも簡単に出来るし、年齢や環境によって同じ言葉でも受け取り方が変わっていく。それが、朗読の魅力なんですよね。

どんな方法でもアウトプットすることが大切

――ナレーションや朗読をすることによって、ご自身の中でポジティブに変わった部分はありますか?

堀井:私は、声に出して読むことで「自分を客観的に見る力」を身につけられました。朗読は演劇と違って、どんなに盛り上がる場面でも、高揚する気持ちを抑えて読まないといけないんです。どんな時でも感情的にはならず、一歩引いて物事を見ることは、精神的にすごくいい影響を与えてくれます。

――堀井さんは、SNSやPodcastなどプラットフォームを使って日々発信されていますが、インターネットの場を使って表現する際に大切なことって何だと思いますか?

堀井:どんな方法でもアウトプットしてみることがいいと思います。私は普段からデジタルでファンの方と交流することが多いんですけど、自ら企画した朗読会は、アナログなのでSNSの配信とは、また違うものが生まれるはずだと期待しています。

――堀井さんは、今後インターネットを使って、何か挑戦してみたいことはありますか?

堀井:最近、長年の夢だった『OVER THE SUN』グッズをSUZURIさんに作ってもらって。ウエストポーチやひざ掛け、チューリップハットなど、50代の女性に必要なものを揃えました。どれも重要アイテムで、この夏の間に流行らせたいと思っています(笑)。

――『OVER THE SUN』グッズを持っていることで、リスナー同士のコミニュケーションも盛んになりそうですね。

堀井:いつか『OVER THE SUN』で大きなイベントをやりたいと思っているので、その時にみなさんが着用して来てくれたらとても嬉しいです。もし、街でグッズを見たら、私も何らかのグッズを見せ返すかもしれないですね(笑)。

<取材・編集 小沢あやピース株式会社)>
<撮影 曽我美芽
<構成 吉野舞

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