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現代人魚レシピ
女の子は砂糖とスパイスでできていない。水と炭素とアンモニアとその他素敵な何かでできている。そこから人魚を作るために必要なものはなんだろうか。マグロの尾とタイの髄液とベルーガの血液とその他素敵なあれこれである。
幸い人間を一から作る必要はなくなったため(というよりできる気がしないため)私は手軽に人魚を作ることが出来る。
ー現代人魚レシピより
隣人の部屋から異臭がするという報告を受けて大家が鍵を開けた。
築30年の古いアパートの一室、その106号室は年中カーテンを閉め切っていた。しかし住人は気さくな好青年であり、明るく朗らかで大家も毎日挨拶を交わしていたという。そのため誰も彼の奇行を疑わなかった。毎晩違う女が部屋に入っていくのを見ても誰も咎めなかった。
「容疑者はこの部屋の住人、二十九歳……青年という歳でもないな」
「それでも彼はとてもあどけない顔をしていて見た目は十九歳ほどに見えるんです」
刑事と大家はその狭い殺害現場の中で会話をしていた。大家は震えながら容疑者を庇う。遺体を見ないようにしながら。
「彼は本当にいい子なんです。きっと人に騙されているんだわ、あの子が戻ってこないことにも理由があるはずなんです」
「でもねぇ、奥さん。そのいい子のお部屋で殺人事件が起きているのは事実なんですよ。あくまで容疑者ですからね。こちらも彼を捕まえない限り何も解決せんのですわ」
「あのこを牢屋に入れないで、おねがい」
「でもねぇ」
「あのこはいつか立派なお医者さんになってたくさんの人を救うから、だからおねがい」
クソッタレ、と思った。過去に人を殺していても未来で救えばそれでいいなんて道理はない。
刑事には「あくまで容疑者」と言いつつも確信があった。犯人は間違いなくこの部屋の住人だ。証拠が揃いすぎている。動機も明白だった。
遺体は水を張ったバスタブの中にいる。中は刑事が鼻をつまむほど生臭かった。しかし遺体は少しも腐っておらず、みずみずしい女の白い肌が輝いている。しかし、それ以上に彼女の下半身を包む鱗が水面と反射して虹色に輝いていた。少女の両足は切断され、大きな魚のヒレをつけられている。バスタブの外には少女の両足とマグロの頭が仲良く並ぶ。
それはまさに人魚だ。
イマドキ女子高生の可愛らしい顔のついた人魚だった。顔を濡らすことは無かったようで、メイクも落ちてはいない。死んでいるのだからもっと顔色が悪くても良いのだが、血色の良い赤い口紅がそれを隠していた。まるで今にも動き出しそうだ。青白く細い腕には点滴の針が刺されており、今も尚、上から吊るされた血液パックと繋がっている。失血死から免れようとしたのだろうか。こんな雑な処置で。
人魚の隣には逃亡した住人の筆跡と同じ文字が書かれた冊子があった。湿気でくたびれており、持ち上げても音を立てない。そこには【現代人魚レシピ】と書かれていた。論文のような枚数の紙が纏められている。事細かに水だの炭素だのと怪しい文字が連ねられていた。
さらには驚くべきことに その冊子の最後、容疑者と被害者の名前が並べて書かれており、両者の拇印が押されていた。それは明らかに同意書である。
【私は綺麗な人魚になります】
と少女の字が表明している。人魚になることを。
【私は人魚をこの現代に作り出します】
と容疑者の字が表明している。人魚を作ることを。
しかしこんな稚拙な同意書があったとしても人を殺していいという事にはならない。遺された遺族がなんと思うか。足を切られ、魚に繋げられた娘を棺桶に入れることの辛さはなんと言ったら良いのか。極めて残酷である。自分の娘がもしこうなったらと考えるだけで体中の血液が頭に上るのを感じる。おかげで刑事の手はずっと震えたままであった。
「なにが人魚だ」
その呟きは居間にいた大家にも届いたようだ。顔にシワが刻まれた小太りの女だ。遺体(バスタブ)を見てはいないが、容疑者が帰るまで一緒に待つと言って聞かなかった。正直捜査の邪魔なので退いてほしかった。そんな女がまるで与太話のようにケロリとして口を開いた。それはバスルームの刑事に間延びした声で届く。
「あのこ、人魚作れたんですか〜?」
刑事は唖然とした。風呂場の戸を閉め、女につっかかるため居間へバタバタと足音を立てて向かう。狭いワンルームでは僅か数歩で目標へ辿りついてしまう。
「あのこ人魚を作るのが夢だったんですよ。死んじゃったかもしれないけど、あのこ人魚作れたんですねぇ」
おまえは何を言っているんだ、と叫びたかったが声も出なかった。しかし刑事のその言葉の代わりに背中から、風呂場から声がしたのである。
「あの〜、博士〜、私、人魚になれましたか〜?」
私たちは人魚についての長い夢を見すぎていたようだ。
サイズ | 身丈 (cm) | 身幅 (cm) | 肩幅 (cm) | 袖丈 (cm) |
---|---|---|---|---|
S | 62 | 52 | 44 | 56 |
M | 66 | 55 | 48 | 60 |
L | 70 | 58 | 52 | 61 |
XL | 75 | 63 | 55 | 62 |
XXL | 80 | 68 | 58 | 63 |
110 (Kids) | 44 | 35 | 29 | 40 |
130 (Kids) | 51 | 40 | 35 | 45 |
150 (Kids) | 58 | 47 | 40 | 53 |
※ 製作の過程で3cm前後の個体差が生じる場合があります。予めご了承ください。
※ ネコポス(ヤマト運輸) は「ステッカー50枚」「サコッシュ2点」「缶バッジ30点」「ノート1点」「タオルハンカチ1点」「エコバッグ2点」「ドッグTシャツ1点」「ソックス2足」までのご購入時のみ、利用することができます。
※ Tシャツ便(ヤマト運輸) は「スタンダードTシャツ(XXL、XXXLは除く)1点」「オーバーサイズTシャツ1点」「ヘビーウェイトTシャツ(2XL、3XLは除く)1点」「オーガニックコットンTシャツ(XXLは除く)1点」「ロングスリーブTシャツ(XL、XXLは除く)1点」までのご購入時のみ、利用することができます。