上：？？？

第四惑星にて施行された共同妊娠実験の活動写真である。
共同妊娠とは、地球を出産するための手段として極一般の方式として浸透している出産方法である。これは、優性思想の賜物であり、より優れて、他人より秀でた人間を生み出す際に用いられる現代の画期的な手段である。これは、出産者両者の合意のもとに施行される。この方法により、出産者AとBは地球を出産した。共同妊娠を施行するには、当人たちの同意を示す文書の印と、安産型の母胎、有り余る母性が必要である。これらの条件を満たしたＡとＢは、関係者により監禁、監視された。その一部始終は一日ずつ、ＶＨＳテープにまとめられている。全三か所からの視点で撮影されたそれは、全て、私の書斎の抽斗にある。地球の精子と火星の卵子が手を取り合い、やがては故郷である青い惑星を出産する。この美しい過程が余すことなくおさめられている。しかし、それをファッションの一部として取り上げるには、まだ何もかもが不揃いである。それまでの間、あなたたちは、この活動写真で我慢してもらう。彼女たちも、私の横で喜んでいる。

下：関係者Cのメモ

十月十日の間、彼女らは永遠にこの表情を保ち続けた。カメラを向けて、「笑って、ほら、笑って」と優しく催促しても、決して笑うことはなかった。そこには、自分の子どもを誕生させるための母性が一切存在していなかった。条件を満たしていなかったがために、彼女らは悲痛ともとれる不適応な表情を絶やすことはなかったのだ。しかし、これは当事者の責任であり、我々関係者にとってそれは蚊帳の外である。また、彼女らには本来の自分たちへの教育への失敗と子どもたちへの純粋な愛が根付いており、それを基底に母胎と母性を形成していたのだ。それが、母胎の極度の損傷、母性の極端な欠落に繋がっている。実験は失敗だ。母胎の損傷が激しく、単独でも不可能であることが確定した。これで何度目の失敗であろうか。火星にいられる僅かの期間でしかできない貴重な実験であるのに、情けない。