オタクワールドワイドウェブとは不思議なものだ。ヴェネチアから北に数キロコンシーオに住むマンマの作ったピッツアーを思い出させる。あるいは湾岸戦争、目の前をRPG弾がかすめて後ろの学校が木っ端微塵になった、そんな死地にあってもオタクワールドワイドウェブは神の手を差し伸べるでも光によって道を示すわけでもないが、確かにそこで感じることができた。

　今思えばとち狂っていたかもしれないが、オタクワールドワイドウェブに救いを求めていた。それは遠く西の入道雲とワルツを踊りに昇って行った”兄弟”、ロッソの奴もおなじに違いなかった。ロッソは常に神や家族、超自然以外の確かな存在に救いを求めている一人だった。終戦後”じゃあまたな”といったが、それっきり会うことはない。数年に一度忘れた頃に手紙が来た。ロッソは終戦後2年は退役軍人としていたが、その扱いは散々なものでゴミを漁ったり、物乞いで食いつなぐ日々だったらしい。２年の放蕩の末、ロッソはいきなりシンガポールに飛んだ。到着からすぐにアジア人と共にして商売を始めた。馬油を売る仕事らしい。シンガポールには世界中の金持ちが集まっていた。オイルマネーは恐ろしいものだ、中東の連中は70年代から変わらず世界一を求めている。イスラエルの連中はメリケン野郎と競いあうようにロシア人、日本人もこぞってロッソの馬油奪い合ったそうだ。ロッソは1992年5月23日を境に手紙をよこさなくなった。

　いくら送っても返信はなく、”切手代が嵩むから”いつの間にか私も手紙を出さなくなった。ロッソと戦場で感じたものは、確かに確かだった。マンマに言えば「ああ、息子よ。クレティーノになったのか？」と言われるかもしれないが、確かに確かだったんだ。右手に刻まれた微かな切り傷が、オタクワールドワイドウェブとロッソを思い出させる。ロッソから最後の手紙は他愛もない現況報告だったが、最後の手紙だけ、筆の末にこんなロゴが刻まれていた。

オタク・ワールドワイドウェブ。今でも変わらずここにある確かな確かだ。