やがて日も傾いてきて、
先生は川沿いをトボトボ歩いていました。

（ずっとネコたちに振り回されっぱなしの1日だった。
　もう疲れた。早く家に帰って休みたい）

川を渡って商店街を抜ければ自宅です。

川を渡ろうとすると橋の上には、
3匹のネコがたむろしていて何だか嫌な予感。
そーっと近づいてみると、どれも子ネコで安心しました。

3匹とも先生をみとめると、嬉しそうに駆け寄ってきます。
足に体をこすりつけてじゃれつく姿が可愛かったので
よせばいいのについ声をかけてしまったのです。

「こんな所で何をしてるの？車も通るし危ないのに…」

すると、ニラの臭いがする1匹がズイと前に出て

「布教です。橋を渡る人たちに教えを広めてます。
　あなたも信じれば救われますよ」

と、自信満々のドヤ顔。

「布教？？？……へ～…」

違和感あるなぁと思いつつも、口が勝手に動いていました。

「一体何の教えを広めているの？」

「チャース！！ラーメンだす」

「こんな小さな体のどこから？」と思うほど、
大声でわめく子ネコがおどり出てきました。

「ラーメン？？？…
　ラーメンは信じるものじゃなくて食べるもの…たぶん」

口にしてはならないことを言ってしまったようで
2匹とも悲しそうな顔をしてうつむいてしまいました。

すると、2匹の間からカ
ツオ節のいい匂い香りがしたかと思うと、
頭の中がラーメンのことでいっぱいの子ネコがあらわれ、
先生にお箸とレンゲを渡して、微笑みかけてきます。

「エッ！？」

沈黙がつづき、3匹の子ネコたちを見つめると
みんなコクリとうなずいて先生を見つめ返します。

（(；ﾟДﾟ)食べないといけない雰囲気だなぁ…）

「じゃ、一口だけ」

スープがこぼれ落ちそうになって、
あわててレンゲですくって口に運ぶと
今まで食べたどのラーメンとも違う、
とても幸せな味がしました。

「う、うまい！！！　麺や具も食べていいの？」

口の中からやがて体の中に染みわたり、全身を巡ると
やがて味わったことのない自由と解放感で満たされます。
その時、ネコたちがおごそかに尋ねてきました。

「あなたは、今、ネコの前に立ち、
　おいしいラーメンを食べました。

　あなたは、その健やかなるときも、病める時も、
　ラーメンを愛し、ラーメンを敬い、ラーメンを慰め、
　ラーメンを慈しみ、その命の限り、
　堅くラーメンを信じることを誓いますか？」

「はい！誓います」

「父ネコと子ネコと精霊ネコのみ名によって…ラーメン」

こうして先生は、いつの間にか子ネコたちの導きにより
人間として初めてラーメンの洗礼を受けてしまったのです。

（あまりの美味しさについ…）

橋を渡って商店街に入る頃になると、
心と体に異変が起こりつつありましたが、
先生はまだそのことを知るよしもありませんでした。