「僕たちには武器がなかったから……」チョコレートプラネットが語る、才能なき者の戦い方

クリエイターが集まるプラットフォーム「SUZURI(スズリ)」では、さまざまな創作でご活躍中の著名人に「表現をすること」について伺うインタビューをお届けします。

今回のゲストは、お笑いコンビ・チョコレートプラネットの長田庄平(おさだ・しょうへい)さんと松尾駿(まつお・しゅん)さんです。IKKOさんや和泉元彌さんのモノマネ、リズムネタの「TT兄弟」などで大ブレイクし、テレビでは数々のレギュラー番組を持つ人気芸人のおふたり。ブレイク後も歩みを止めることなく、常に新たな笑いを提供し続けています。

そんなおふたりが人気芸人になれた理由や、才能ある人ばかりの世界での戦い方、その中で物おじせず、アウトプットを続けるための秘訣などについて聞きました。

<チョコレートプラネット>
長田庄平さんと松尾駿さんからなるお笑いコンビ。2006年結成、吉本興業所属。IKKOさんや和泉元彌さんのモノマネ、TT兄弟、Mr.パーカーjr.などをきっかけにブレイクし、今や冠番組を持つ人気芸人に。テレビ、ラジオ、舞台の他、近年は俳優や声優としてドラマやアニメに出演したり、音楽ユニット「美炎」で楽曲デビューするなど幅広く活躍中。YouTubeチャンネルの登録者数は約169万人。

才能がないなりの戦い方「1本釣りができないなら、網で行ってまえ!」

――チョコレートプラネットが本格的にブレイクしたのは、IKKOさんや和泉元彌さんのモノマネを始めてからだったと思います。それまでコントを中心に活動していたおふたりにとっては、本筋と違うところで有名になったわけですが、そのことを当時はどう感じていたのでしょうか?

長田:「こういうルートもあるのか」と、ひとつの答えが見つかった気がしました。当時の僕たちは、バラエティ番組のひな壇での立ち位置に迷っていたんです。ふたりとも特筆すべき武器がなかったし、天然なわけでも、頭がすごく良いわけでもない。かつてヤンキーだったわけでもないし、貧乏だったわけでもない。キャラクターがなくて、振る舞い方がわからなかったんです。そんな状況の中でモノマネという武器が出てきてくれたので、「あっ、これでも戦えるんだ!」と思いました。

――その口ぶりからすると、モノマネ芸が出てきたのは偶然だったんですか?

松尾:めちゃくちゃ偶然です。考えたこともなかったんです。自分たちが器用なタイプだとも思っていなかったし。

――そうなんですか!? 今ではあらゆる分野でコンスタントにバズを起こしていて、めちゃめちゃ器用に見えますが……。

松尾:結果的に器用に見えているだけで、実際は武器がないからできることをたくさんやってみただけなんです。本質は僕らふたりとも変わっていなくて、器用になったわけでもないと思います。

――とあるメディアで「自分たちにはクリエイティブな才能がない」と答えているインタビュー記事を読み、驚きました。

長田:もしも僕らを「才能ある人」だと定義するならば、この程度の才能を持っている人は、山ほどいると思いますよ。お仕事をいただいていろんな人と接していると、「この人はすごい。自分の才能なんて本当に大したことなかったな」と思わされるし、何度も現実を突きつけられます。

それで「才能がないならどうやって戦えばいいんだろうか」と考えるようになりました。僕らのやっているモノマネもTT兄弟も、別に、そんなにクオリティ高いもんじゃないんですよ。

――いやいや、そんなことは……。

長田:いや、ほんとに(笑)。クオリティが低いとは言わないまでも、テキトーにやったものがたまたま跳ねただけですから。

――テキトー……(笑)。

長田:でも、そういうことでいいんだと思ったんです。つまり、クオリティが高いものを作れないのであれば、自分たちができる範囲のものを、たくさん作って出していけばいいんだと。それが跳ねることもあるし、そうじゃないこともある。

何がバズったり跳ねたりするかわからないから、どんどんアウトプットすることが大事だと思うんです。しかもどのプラットフォームで跳ねるかもわからないから、基本的に全出しする。

――チョコプラさんがすごいのは、一度ブレイクしてもそのネタに固執するのではなく、どんどん新しいネタを投下していくことです。IKKOさん&和泉元彌さんのモノマネでブレイクしている最中にTT兄弟を出したスピード感もそうですし、これだけテレビ出演が増えた今でも新作コントを作り続けていること、次々話題作を呼ぶYouTubeの企画など、幅広くバズコンテンツを生み出しています。

長田:釣りでたとえるなら、「1本釣りができないなら、もう、網で行ってまえ!」という感じですね。網なら、何かしら入ってるだろうと。網でも無理なら仕掛けを変えてみようとか、そういう戦い方です。

僕らにとっての1本釣りはコントのことで、コントを極めればその先にでかい獲物があると思っていたんですよ。それがなかなか引っかからない。それでも1本釣りを極めてピンポイントで釣り上げないとだめだと思っていたんです。だけど、本当は他にもいろんな方法があったんですね。

――その「網」を思い付くか思いつかないかが大きな差だと思いますが、なぜおふたりには思い付くことができたのでしょうか?

長田:いや、これは本当に偶然だと思うんです。最初からそう考えていたわけではなかったし、いろいろ経験した結果、たまたまそういう答えに辿り着いていただけで。

松尾:僕らのあいだで「1本釣りにこだわらず、ここからは網を使おう」みたいな話し合いがあったわけでもないんです。これまで、方向性についての話は一切ない。何も考えず、流れに身を任せて、そうしたら偶然こっちの道が見つかった。そんな感じなんです。特に、僕は本当に何も考えてないし。

――ボケとツッコミが曖昧なまま展開されるスタイルも、偶然決まったんでしょうか?

松尾:それもそうですね。やりながら少しずつ自分たちに合うスタイルを見つけていった感じで。無理しても続かないと思うので、いかに無理しないかが大事だと思います。

僕らの武器は「読解能力」

――コンビやユニットの場合、ひとりだけ売れてしまって格差が生まれることがあります。チョコプラさんにはそれがありません。

松尾:たぶんそれも偶然だと思います。IKKOさんで番組に呼ばれていた時も、僕だけが呼ばれることはほぼなくて、だいたいコンビでした。それは和泉元彌さんのモノマネをすぐに持って行けたからかもしれないけど。

長田:でもそれも、IKKOさんと和泉元彌さんというセットがたまたまハマっただけですからね。何がハマるかなんて本当にわからない。ただただ自分にできることを続けた結果、和泉元彌さんがハマっただけで。

――早いペースで新しいものを出すのは、簡単なことではないと思うのですが……。

長田:それはたまたま僕がそういうタイプだっただけで、ひとつのテーマをしっかり育てるタイプの人もいますよね。僕らの同期のすゑひろがりずなんか、狂言のネタ1本でものすごく練り込んでいる。自分も狂言ネタを作っているからわかるけれど、あんなに練り込めないですもん。すごいと思います。ああいう能力が僕にはないんです。

――だとしたら、おふたりの自己評価として、自分たちは何が優れていると思いますか?

長田:読解能力だと思います。何を求められているかを理解して、こちらからその答えを出す能力。意外とそれって難しいのかなと思っていて、僕らはふたりともそれを無難にできるタイプなんだと思います。

松尾:僕も何も考えていないけれど、相手が何を求めているかを考えるという点だけは努力していますね。たとえば長田さんがYouTubeのネタを考えてきてくれたら、長田さんがその企画で何をやりたいのかを理解する。そして、そのネタをより面白くするために努力する。

――なるほど、読解力というのは、スタッフやお客さん相手だけでなく、コンビ間でも重要な能力なんですね。

松尾:もちろんそうです。テレビに出る時も、どの局のどんな番組かによって持って行くノリを変えます。スタッフさんがどうすれば喜んでくれるのかを考えることは大事ですよね。

今、インタビュー中に写真を撮ってもらっていますけど、ただじっと固まって話すのではなく、こうして手に動きをつけたり、表情を変えたり……すると、こういう写真が使われたりするわけです。

――まさに。助かります(笑)。

長田:TT兄弟にしても、『有吉の壁』の企画に対してどういうネタがふさわしいのか、いちばん理解して正解を出せたのが僕らだったんだと思うんです。TT兄弟は、クリエイティブというより読解能力の結果生まれたものだと思うんですね。

まずは、自分を知ることから始めよう

――これまでの話をまとめると、チョコプラさんは「才能がない人の戦い方にシフトした」ことで現在のポジションにたどり着いたと言えそうです。では、平凡な人が才能ある人と戦うためには、何をすればいいのでしょうか?

長田:まずは自分を知ることだと思います。自分にどんな能力がどれくらいあるのかを理解して、その範囲内でどう最大限戦えるかを考える。たぶん、これができる人があまりいないんですよね。僕らもできていませんでした。

なぜできていなかったかというと、成功しか見えていなかったからです。しかもその成功は、漠然としたものだったんです。

――漠然とした成功、とは?

長田:芸人としての成功って何だと思いますか? 賞レースで優勝すること、お金を稼ぐこと、有名になること、他の芸人たちから認められること……おそらく人それぞれの成功があると思いますが、「賞レースで優勝する」と「お金を稼ぐ」は違うことなので、アプローチの仕方が違うはずなんです。

それなのに、「お金稼ぎたいし、優勝したいし、認められたい」と、ざっくりした目標にしてしまう。だから何をやっていいかわからなくなる。そんな人が多い気がします。

――どの山をどのルートから登るか、決めておくべきなんですね。おふたりにとってのそれは、どんな山だったんでしょうか?

松尾:僕らは茂みをかきわけていたら「あっ、こんな道がある!」と偶然別の道を見つけてしまっただけなんです。たまたまそこにモノマネというルートがあって、そこを辿っていったら頂上まで行けたみたいな感じで。そんな山を登るつもりはまったくなかったんです。

長田:そう。登っている自覚もなかったんです。コントの山を登っていたつもりが、途中で脇道に逸れて迷ってしまって、たまたまそこに別の道があっただけ。「こっちの山の景色も良いんだなあ」と思いながら、とりあえず先まで行ってみたら、「なるほど、いろんな山や、いろんな道があったんだな」というのが見えた。でもそれは、登っている最中には見えないんですよね。

――なるほど……。

長田:もちろん目標が明確ならいいけれど、夢に近づけば近づくほど「思ってたのと違うな」と感じることは、意外とあると思うんです。山の下から見ていた景色と上から見る景色って、何か少し違う。いちばん高いと思っていた山が意外と低かったり、他にもっと高い山がたくさんあったり。

――必ずしも目標設定が大事なわけではないということですか?

長田:目標設定は大事だけれど、僕らみたいに、その目標が曖昧なままになっている人が意外と多いんじゃないかと思って。というか、明確な目標を立てられている人なんて、そんなにいない気がします。僕らはいかに曖昧に頂上を目指していたか、後から気づきました。

――ちなみに、芸人の中で参考にしている人、ロールモデルはいましたか?

長田:そうですね……あえて言うなら、オリエンタルラジオさんです。「そういう方法もあるんだ」という点で、オリラジさんのトライ&エラーの方法は参考になりました。

芸歴がひとつ上だったから、間近で見ていたんですよね。いきなり「武勇伝」でバーンと売れて、一度落ちて、そこから藤森さんがチャラ男キャラで、中田さんがインテリキャラで売れて。そういういろんな方法があるんだなって。

――たしかに、そういう目線で見ると、チョコプラさんとオリラジさんには共通点がある気がしますね。

長田:正直、初期の頃は、芸人からネタをバカにされていたタイプだと思うんです。でもネタを否定されてからも生き残り続けているのは、やはりいろんな方法を試してるからだと思うんです。

もしもオリラジさんがネタだけを追求していたら、そのままだめになっていたかもしれない。でも彼らは、おそらく自分たちに向いているのはネタではないと認めて、シフトチェンジして新しいことをやり続けた。

――自分はネタに向いていない、と認めるのはきついことですよね。

長田:きついです。僕も才能のなさを自分で認めるのはきつかったです。でも実は、認めた方がラクなんですよね。

――芸人をやめようと思ったことはありますか?

長田:コントでずっと売れなかった頃は「これで無理ならもうだめなんじゃないか……」と思っていたことはありました。やめようとまで思ったのは一瞬ですけど。

松尾:僕は逆に、やめようと思ったことはないです。「つまんないな」と思ったらやめていると思います。これまでは、どんな時でもずっと楽しかったので。

「スベリ」を恐れず、面白いと思ったらアウトプットを

――では具体的に、アウトプットし続けるための秘訣について伺います。あえてざっくり聞きますが、初心者や心が折れやすい人は、何から始めればいいと思いますか?

長田:今やっていることとまったく関係ないことをやってみるのは良いと思います。イラストレーターの人だったら、文章を書いてみたり、写真を撮ってみたり。そんなふうに別のジャンルのことを試しているうちにヒントが見つかることは珍しくないと思います。それから、流行っているものから着想を得るのもアリだと思います。クリエイティブな心を持っている人にとっては抵抗があるかもしれないけれど、自分色に変わるはずです。同じものには絶対にならないので。

――チョコプラさんの作品の中で、流行を取り入れたり、定番から広げたりしたネタはありますか?

長田:TT兄弟なんてまさにそうですよね。どこにでもあるリズムじゃないですか。リズムネタを作っている芸人なら誰しもどこかで使ったことのあるリズムです。YouTubeの企画で言えば、たとえば……「6秒クッキング」とか。

――あれは……(笑)。

長田:あれはVineという6秒動画のアプリの中で料理をやってみようと思ったことと、YouTubeでメシ系コンテンツがバズっていたこともあって始めたものでした。でも、そんなにバズるとは思っていなかったんです。本当に何が流行るのかわからないです。特にYouTubeはわからない。

――わからないからこそ、どんどん出して、試していくんですね。

長田:そう。外すことの方が圧倒的に多いけれど、それで良いんです。僕はそういう戦い方なので。

――アドリブについても伺いたいのですが、チョコプラさんには「どこからがアドリブなのかわからない」ネタが多い気がします。

長田:軸にあるのは「面白いかどうか」なので、作り込んだ方が面白いのであれば作り込みますし、作り込まない方が面白いならアドリブでやる、そういうアプローチです。あまり作り込まない方が、意外と新しいものが見えてくることがありますね。「そういうネタの方向に行っちゃうんだ」みたいな面白さがある。

――たとえば「親父が」というコントの松尾さんの声が芦田愛菜ちゃんみたいになっていくところ、あれはアドリブですか?

松尾:あれは……途中からアドリブですね(笑)。

――やはり(笑)。

松尾:ふたりのやりとりで笑わせるネタの場合はあまりズラすことはないけれど、ボケとツッコミの役割を明確に決めているネタの場合は、とにかく相方を笑わせようとするから、崩れやすくなっていきますね。でも僕らのアドリブは、事前に「ここからアドリブで」みたいな打ち合わせはまったくやらないんです。舞台に出て、勝手にどっちかがやり始めるものなので。

長田:YouTubeではそういうパターンが多いですね。たとえば「財津チャンネル」なんかは、何も決めてないですから。一応、話すテーマだけ「2.0」とか「サスティナブル」とか決めるけれど、それだけです。「こういうワードで遊ぶんだよ」ということを、説明しなくても松尾がサクッと理解してくれるから成立するんですよね。あの企画を始めた時も、「インテリな感じの対談でやりたいんだ」「わかった」って、これだけですから。松尾の読解能力が高いんですよ。

松尾:僕が「財津チャンネル」の時に考えているのは、自分の名前と職業と、最後の告知だけです。途中の話は全部やりながら考える。だから、全然何も出てこない時もあるし、普通に笑っちゃう時もある(笑)。

長田:その全部を笑ってもらう、というネタですね。

――お話を聞いていて、すごくバランスの取れたコンビだと改めて感じました。

長田:こんな奇跡的なバランスになったのも偶然なんです。だって、戦略で松尾とコンビを組んでいるわけじゃないですからね。ただ松尾が余ってたから組んだだけなので(笑)。そんなことも含めて、クリエイティブな世界って、突き詰めれば突き詰めるほど、運の要素が大きいのかなと思います。

<企画・編集 小沢あやピース株式会社)>
<取材・執筆 山田宗太朗>
<撮影 小原聡太

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