-----------------------
能　道成寺／どうじょうじ
-----------------------
紀州（和歌山県）にある道成寺の鐘は、長いあいだありませんでしたが、今日は新しい鐘をいれるので、再興の式を行います。
今日は女人禁制だといわれたにもかかわらず、能力（のうりき＝寺男）は、鐘供養をしたいといってやって来た白拍子（しらびょうし＝踊り子）の女性を、寺に入れてしまいました。
　　　＊
舞を見せましょうと舞い始める白拍子。しかし実は…。
むかし、彼女は若くしてイケメン僧侶に失恋。逃げた僧侶を追いかけるうち、うらみと怒りのあまり大蛇となってしまい、道成寺の鐘に逃げ込んだ僧侶を、ついに鐘ごと焼き殺してしまったのでした。
　　　＊
思えばこの鐘がうらめしい。そう言って彼女は鐘の中に飛び込みました。
鐘は落ちてしまい、能力は僧侶に事態を説明。僧侶たちが祈ると、鐘の中からふたたび彼女が、蛇体（じゃたい）となってあらわれます。
蛇体となった彼女には、人間の心はもう見当たらないかもしれません。
　　　＊
有名な道成寺説話の後日譚（ごじつたん）を展開する、能の中でももっとも演出にすぐれた曲といってもいいかもしれない作品（ぜひ舞台を見てください）。
シテ（主役）は、道成寺の鐘のなかで蛇体に変身するので、ここではフィッティングルームに!! 白拍子のように、蛇体になったり、鬼になったり。
あるいは逆に、鬼は、人間にもどれたり？　鬼になりかけている現代人の方は、鐘で変身してみてはいかがでしょうか！
　　　＊
（2019年版国立能楽堂卓上カレンダーに使用）